私にも小学生だった頃がありまして、ええ、その当時はさぞかし紅顔の美少年だったに違いありません。その知性をたたえた大きな瞳は真っ直ぐに将来を、日本のいや世界の輝ける未来を見つめていました。
その瞳で、見つめていたものがもう一つあります。キャンプファイヤーです。
小学五年生のとき、体験学習で行ったキャンプ。忘れもしません。山田先生(仮名)が、つか、この山田先生、私が小三の頃の担任ですが、暴君でした。
何せ、学級会を"学級裁判"という吊るし上げの時間に変えてしまったのです。
システムはこうです。
まず、クラスの誰かに悪いことをした誰かを訴えさせます。訴えられた人は被告人となり、教室の前に立たされます。で、悪行の数々が暴かれます。その罪に対して、クラスのみんなが弁護する側(弁護人)と糾弾する側(検事)に別れて意見を戦わせます。
裁判官は山田先生(仮名)です。
でも、そこは小学生です。弁護する人なんて誰もいません。いかに私と磐田君(仮名)の行為が迷惑だったかを声高に訴えます。
中にはこの学級裁判を苦々しく思っている生徒もいるのですが、そんなことは言い出せません。そんなことを言った日には、次の学級裁判のターゲットになってしまう恐れがあります。
そんなこんなで、私と磐田君(仮名)は罰として本来は日直の仕事であるべき黒板消しを毎日やる羽目になるわけです。
そんな学級裁判に革命を起こした男がいます。私の家のはす向かいの家に岐阜から引っ越してきた三嶋君(仮名)です。
ある日の学級裁判の時、いつものように山田先生(仮名)が目を爛々と輝かせながら生贄の名前を挙げよと言いました。きっと血に飢えていたに違いありません。
私はまた黒板消しを覚悟しました。
が、その時です。三嶋君(仮名)が手をあげました。
「ぼくは、今週の給食当番です。給食当番の時、山田先生(仮名)が、にんじんを残すのを見ました。」
誇らしげに言った後、彼はおもむろに着席します。
さぁ困った、山田先生(仮名)。
どうすんだおい、山田(仮名)よ。あぁん?いつも言ってるよなてめぇ、給食は絶対残すなって。モヤシが苦手な福居さん(女子、仮名)が食べれなかったとき、掃除の時間まで残して食べさせたよな。このオトシマエ、どうつけてくれんだ?
私と磐田君(仮名)のターンです。
ここぞとばかりに糾弾します。もはやすでに教師と生徒の関係は完全に崩壊しています。フルボッコです。ええ、やってやりましたとも、徹底的に。万年黒板消しの恨みはデカイぜ、山田(仮名)よぉ。
・・・判決が下ります。
「これからは先生もにんじんを残さず食べます。」
完全勝訴。
時に転校生はいじめの対象となったり、なかなか新しいクラスになじめなかったりしますが、引っ越してきたばかりの三嶋君(仮名)が我々の仲間に手厚く歓迎されたのは言うまでもありません。
彼の英雄的な活躍によって、学級裁判の歴史に終止符が打たれ、我がクラスは暗黒の時代を脱することができました。
さて、キャンプファイヤーの話題でした。
この山田先生(仮名)が火をつけたキャンプファイヤーが激しく燃え盛ります。
それを囲んで、最近では滅多にお目にかかることのない、もはや絶滅危惧種としてレッドデータバンクに登録されそうな"わらばん紙"に印刷された歌詞を見ながら「遠き山に日が落ちて」を歌ったのも今では遠い遠い思い出です。
が、しかし!
この焚き火の火を起こすのがまためちゃめちゃ大変なんですわ。
私には、なんだかちっぽけなこだわりがありまして、「着火剤」なるものを使うのは美しくないんですわ、私的に。
ですから、大変です。
まず、細い枯れ枝を集めてきて、空気の通りが良いように組み上げます。
そこへ火をつけて、うちわでものすごい勢いで扇ぎます。
気が狂ったように死ぬ気で扇ぎ続けると、そのうち薪に火が移ります。
ここで気を緩めてまったりしすぎると火が弱くなってしまいますので、薪を追加して、また死に物狂いで扇ぎます。
すると、ようやくしばしのんびりできます。
寒いときは火の傍で暖をとりながらお酒を嗜むのも良いでしょう。